「カップ焼きそばを作る」
ただそれだけの行為に、なぜこれほどの文学性が宿るのか。
今回紹介するのは、Twitter(現X)でも大いに話題になった『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』だ。
文豪の原作を知っているなら、「あるある!」と膝を打つ。
知らなくても、「この文豪はこんな面倒くさい言葉を選ぶのか」と笑える。
求人広告風、そして坂口安吾の『堕落論』ならぬ焼きそば論。
どこから読んでも面白い、文体模写の傑作集である。

作品情報
| タイトル | もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら |
|---|---|
| 著者 | 神田 桂一 / 菊池 良 |
| 出版社 | 宝島社 |
| ジャンル | ユーモア / パロディ / 文体模写 |
| こんな人におすすめ | ・文体模写やパロディが好き ・有名作家の「手癖」を知りたい ・隙間時間に笑いたい |
文豪たちが「湯切り」に込めた魂
本書の構成はいたってシンプル。
「もし◯◯がカップ焼きそばの作り方を書いたらどうなるか?」
これだけをひたすら突き詰めた本だ。
ぱっと適当にページを開いても楽しめるし、目次から知っている作家を探してもいい。
自分自身、名前を知っている文豪は3割にも満たない。
普段は漫画ばかり読んでいる私でも、その3割(太宰治や夏目漱石など)は「うわ、言いそう!」と爆笑できた。
つまり、かなり有名な書き手の特徴を的確に捉えているということだ。
坂口安吾の『堕落論』ならぬ『焼そば論』
個人的なベストヒットは、やはり坂口安吾だ。
彼の代表作『堕落論』の文体で、カップ焼きそばのお湯を捨てる。
「生きよ、堕ちよ」という名文句が頭に浮かびながら、焼きそばの湯切りをする様は滑稽を通り越して感動すら覚える。
頭の中で本家の文章と、目の前の焼きそばの文章がリンクし、脳がバグる感覚がたまらなくおかしい。
村上春樹は「やれやれ」と湯を切るか?
村上春樹のパスティーシュ(模倣)も収録されている。
読んでみると、「持って回ったような、やたらと比喩の多い文章」で焼きそばを作っている。
「村上春樹ってこんなに面倒くさい文章を書くのか?」と疑問に思う人もいるかもしれないが、これは「春樹風」の特徴を極端にデフォルメした結果だろう。
本家よりも本家っぽい(?)ねっとりとした文体で湯切りをする姿は、ファンならずともニヤリとできるはずだ。
文豪だけじゃない!多彩なラインナップ
本書のすごいところは、小説家だけでなく「求人広告」や「迷惑メール」といった「文豪以外」の文体も収録されている点だ。
以下に、収録されているラインナップの一部を抜粋してみよう。
収録されている「書き手」たち(一部抜粋)
- 古典・文豪:太宰治、夏目漱石、三島由紀夫、江戸川乱歩、ドストエフスキー
- 現代作家:村上春樹、西尾維新、町田康、森見登美彦
- 詩人・エッセイ:相田みつを、松尾芭蕉、俵万智
- 異色枠:星野源、ヒカキン、小沢健二
- もはや人じゃない:求人広告、迷惑メール、週刊文春、国語の問題文
「週刊文春」風の焼きそばの作り方や、「国語の問題」として出題される焼きそば。
これらは元ネタを知らなくても、「あるある」だけで笑えてしまう。
ちなみに、14ページの太宰治の挿絵で、隣にいる女性がなぜか裸なのも芸が細かい。
(太宰の女性関係のだらしなさを表現しているのだろうか?)
まとめ:3分待つ間の最高のお供
カップ焼きそばにお湯を入れて、待っている3分間。
その間に読むのに、これほど適した本はない。
川端康成先生、申し訳ありません。
私はノーベル文学賞を取ったあなたの作品を読んだことがありませんが、この本のおかげで「川端康成が焼きそばを作ったらどうなるか」だけは知ってしまいました。
文学への入り口として、あるいはただの暇つぶしとして。
この「無駄な知性」が詰まった一冊を、ぜひ味わってみてほしい。
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