ストーリー漫画を描きたいなら、この漫画を読め!
描かない人でも、漫画界の巨匠たちの「頭の中」が覗けるだけで元が取れる。

30年間、不条理ギャグ漫画を描き続けてきたベテラン・中川いさみ。
彼が還暦を前にして、「ストーリー漫画を描きたい」と思い立った。

しかし、描き方がわからない。
そこで彼は、大友克洋やちばてつやといった「レジェンド」たちに、物語の作り方を聞いて回ることにした。

これは、無謀にも巨匠たちに教えを請い、迷走しながら再デビューを目指す男のドキュメンタリーだ。

マンガ家再入門(1)
中川いさみ マンガ家再入門(1)


作品情報

タイトル マンガ家再入門(1)
著者 中川 いさみ
出版社 講談社
ジャンル エッセイ / ノンフィクション / 創作論
あらすじ 『クマのプー太郎』で知られるギャグ漫画家・中川いさみ。
ストーリー漫画への憧れを捨てきれない彼は、ついに「マンガ家再入門」を決意する。
取材相手は、大友克洋、ちばてつや、松本大洋など超豪華メンバー。
果たして彼はストーリー漫画を描けるようになるのか?

感想:石橋を叩いて粉砕するほどの「慎重さ」

読んでいて感じるのは、中川先生の圧倒的なまでの「慎重さ」だ。
石橋を叩いて渡るどころか、「叩きすぎて石橋を粉々に破壊し、さらに掘削機まで持ち出している」ようなレベルで悩み、迷っている。

しかし、だからこそ面白い。

30年のキャリアがあるプロが、新人のように悩み、大御所の前で冷や汗をかきながら質問する。
その姿がシュールであり、同時に、何かを新しく始める人の背中を押してくれる。

巨匠の「感覚」を「漫画」に翻訳する凄技

本書の最大の見どころは、やはりインタビューパートだ。
しかし、ただ話を聞くだけではない。

大御所たちが語る「漫画の描き方」は、往々にして天才特有の感覚的なものだ。
「キャラが勝手に動く」とか「ラストは決めない」とか、素人が聞いても「へぇー(でも真似できない)」で終わってしまいそうな話ばかり。

ところが中川いさみは、その抽象的なアドバイスを一度自分の中で咀嚼し、「自身のギャグ漫画」として出力(実践)してみせる。

  • 先生のアドバイス:「インプット(素材)」
  • 中川先生の解釈:「調理(漫画化)」

この工程があるおかげで、私たち読者にも「あ、大御所が言っていたのはこういうことなのか!」と直感的に理解できる。
才能MAX、努力MAXの成功者たちの理論を、凡人が使えるレベルまで翻訳してくれているのだ。
これは創作に携わる人にとって、とてつもなく嬉しい教科書ではないだろうか。

第1巻に登場する豪華すぎる先生たち

登場するゲストがあまりにも豪華すぎて、中川先生のコネクションに驚かされる。
それぞれの「流儀」が全く違うのも面白い。

大友克洋(『AKIRA』『童夢』)
緻密な世界観構築の神様。
松本大洋(『ピンポン』『Sunny』)
独特の空気感と構図の天才。
ちばてつや(『あしたのジョー』)
キャラクターに命を吹き込むレジェンド。
弘兼憲史(『島耕作』シリーズ)
組織と人間ドラマを描く達人。
諸星大二郎(『暗黒神話』)
異界を描かせたら右に出る者はいない。
その他
松尾スズキ(演出家)、山口晃(画家)など、漫画家の枠を超えたクリエイターにも突撃している。

まとめ:果たして漫画は描けるのか?

人の話を聞いて、噛み砕いて説明するのは天才的に上手い中川先生。
しかし、第1巻を読む限り、「取材ばかり続けて、肝心のストーリー漫画を一向に描く気配がない」のが最大の懸念点であり、笑いどころだ。

このまま永遠に「入門」し続けるのではないか?
そんな心配もしつつ、巨匠たちの金言と、中川先生の迷走を楽しめる一冊だ。