四コマ漫画家が4ページ漫画を描いたら、やっぱり起承転結がうまかった。

新婚の漫画家夫婦。ネガティブな夫(小坂俊史)とポジティブな妻(王嶋環)。
この二人の「食」に対する価値観の違い、そして「下げてから上げる」オチのうまさに、思わずクスリと笑ってしまう。

ぶっちゃけ、他人の家庭の食卓を覗き見るのは、何とも言えない背徳感と面白さがある。

新婚よそじのメシ事情 第一巻
新婚よそじのメシ事情 第一巻

作品情報

タイトル 新婚よそじのメシ事情
著者 小坂 俊史
出版社 竹書房
ジャンル グルメ / エッセイ / 4ページ漫画
あらすじ 40代で新婚となった二人。
今まで料理をする機会がなかった妻の手料理に、夫は不安と期待を抱く。
「妻は料理ができるのか? できないのか?」
分からないまま正座して料理を待つ、夫の葛藤から物語は始まる。

全体の感想:思考グルメという新ジャンル

グルメ漫画も多様化してきたが、本作は「思考グルメ」というジャンルに分類できるだろう。

作中では「味の表現(おいしさ)」はあまり語られない。
『ミスター味っ子』のような派手なリアクションも、詳細な食レポもない。
メインとなるのは、「小坂の食や環境に対するネガティブ思考」であり、そこに「ポジティブな妻のツッコミ」が入ることで生まれる落差だ。

もし登場人物が小坂だけなら、ただの偏屈な独身男の食事風景で終わっていただろう。
そこに妻という異分子が加わることで、作品全体のバランスが「幸せな新婚生活」に着地しているのが見事だ。

個人的に一番気に入っているのは、18話目の「カレーの肉に4000円は半端ない!!」というシーン。
寝る前に2、3話読むのにちょうどいい気軽さが、この漫画の最大の魅力だ。

全話レビュー:よそじ夫婦の食卓メニュー

1皿目〜5皿目:新婚の探り合い

1皿目 しょうが焼き
妻が初めて料理をする話。夫は「妻は料理ができるのか?」と悶々と悩むだけで2ページを消費する。
たった6ページの中に、遠距離恋愛だった妻の情報もしっかり描き込まれており、情報の密度が濃い。
2皿目 雑炊
風邪を引いた小坂のお米の好みについての話。
にじみ出る妻の優しさがいい。それ以上に気になったのは、作者と妻が一緒のベッドで寝ていることだ。
3皿目 たこ焼き
妻の出身地の名物・たこ焼き。
起:ホットプレート購入
承:なぜ食べたいのか
転:妻との格差
結:自分的には満足
たった4ページで完璧な起承転結が決まっている。
4皿目 ベーコンエッグ丼
夫が作った料理で唯一、妻のレパートリー入りした一品。
高級な材料を使っているのに、見た目が最初と変わらないのが残念であり面白い。
5皿目 パン祭り
春のパン祭りのために食パンを消費する話。10年当たったことがない男が、妻と二人で挑む。

6皿目〜10皿目:食い違いと妥協

6皿目 鶏じゃが
「肉じゃがは豚か牛か」問題。高いハードルを越え、妥協して鶏じゃがに落ち着く。
夫婦の食の不一致という難題を、さらなる問題(鶏)で解決するのがうまい。
7皿目 袋ラーメン
妻が作る袋ラーメンの「一手間」に打ちのめされる話。
何も入れない派の自分としては、小坂への共感が止まらない。
8皿目 角煮
角煮の灰汁取りという面倒な作業中に、奥でテレビを見ている人がいると殺意を抱く話。
料理あるあるだ。
9皿目 牛丼
夜一人で食べる牛丼。最後に妻の漫画『ごほうびおひとり鮨』の宣伝が入っているのがちゃっかりしている。
10皿目 肉味噌そぼろ
レタスを消費するための肉味噌そぼろ。ご飯との配分を巡る攻防がコミカル。

11皿目〜15皿目:料理の裏側

11皿目 鉄板焼きそば
焼きそばを作るだけの話なのに、小坂のネガティブ思考が爆発する。
妻の手についた汚れをソースだと思ったが、読み返すと漫画のインク汚れだと気づく伏線があった。
12皿目 唐揚げ
唐揚げを黒焦げにするという失敗、自分には経験がないので不思議でならない。
13皿目 お買い物
レジでインスタント食品だけを出すときの羞恥心。
「普段は野菜も食べてるんだぞ」と店員に弁解したくなる自意識過剰さ、痛いほど分かる。
14皿目 ケーキ
手作りケーキに使われる砂糖の山を見てしまい、「罪の味」を知る話。
妻の「罪深い香りだね」というセリフが、最後のオチへの見事な伏線になっている。
15皿目 レシピ漫画
『OH!MYコンブ』のレシピを真似して酷い目にあった子供時代を思い出した。

16皿目〜20皿目:こだわりと手抜き

16皿目 クリームシチュー
小坂の考える作り方と、実際の作り方の違い。
表紙の鍋の話が出てこないのが不思議だ。
17皿目 カップ焼きそば
カップ焼きそばを食べるタイミングについての熱弁。
18皿目 カレー
小坂にとってカレーは非常食。鍋の前でじっと煮込む姿が、シチューの時との対比になっている。
オチの牛肉格差が最高に面白い。
19皿目 赤提灯
下戸の二人がおでん屋に入る話。
20皿目 朝ごはん
面倒なことを言い出した翌日に前言撤回する小坂。
自分も似たようなところがあるなと気づかされた。

21皿目〜ラスト:それでも二人は食べていく

21皿目 おしゃれメニュー
おしゃれ料理が意外と簡単に作れることに驚く。
22皿目 立ち食いそば
深夜の「かけそば」への言い訳。
背徳感があるからこそ美味い。作中の時計から計算すると、往復40〜50分の冒険だ。
23皿目 マルチタスク
妻のマルチタスク能力と、夫のシングルタスク。
24皿目 坦々麺
テレビの影響で料理を作る妻。
25皿目 そうめん
「そうめんは湧いて出ない」という名言(?)。贈答品でもらうものという認識、分かる。
26皿目 縁日焼きそば
道端で一人で食べる苦痛を避けるため、二人で座って食べる。
1巻で3回も焼きそばの話が出てくるあたり、作者の好みが透けて見える。
描きおろし
貧乏学生時代の食生活。
パスタにお茶漬けの素、懐かしい味がした。