諸星大二郎先生の漫画は絵が独特なので、今の時代では多少読者を選ぶかもしれません。
しかし、声を大にして言いたい。諸星先生の漫画は面白いのですよ。
あれは私が子供のころの出会いです。
町の図書館には殆ど漫画が置いてなかったのですが、その時偶然手にしたのが諸星大二郎先生の漫画でした。
子供好みの絵ではないはずなのに、ぐいぐい引き込む世界観と、一瞬の緩急をつける笑い。
なぜか「次が読みたくなる」不思議な漫画でした。
自分の諸星大二郎作品の思い出話で終わってしまいそうなので、ここらで漫画『BOX~箱の中に何かいる~第1巻』の感想に入りましょう。

BOX~箱の中に何かいる~ 第1巻
- 作者:諸星大二郎
- 出版日:2016年
- 出版社:講談社
- ジャンル:ホラー漫画
あらすじ
差出人不明で届いた「パズル」とチケットに導かれるように、奇妙な四角い館に集まった7人。興味本位で来たという謎の女も加わり、中に入った彼らを待ち受けていたのは人形のような美少女と、想像を絶する迷宮だった。パズルを解かなければ出られない。解けば、体の一部が消える! 彼らは脱出できるのか? そして「招待主」は何者なのか? 幻想漫画の巨匠が仕掛ける状況限定(ソリッド・シチュエーション)型サバイバルホラー!
Amazonより引用
登場人物
- 角多 光二(かくた こうじ)
- 興子(キョウコ)
- 桝田 恵(ますだ めぐみ)
- 神宮 智恵子(じんぐう ちえこ)
- 甲田 信一郎(こうだしんいちろう)
- 山内 誠(やまうち まこと)
- 谷 寛一 (たに かんいち)
- 谷 八重子(たに やえこ)
- 魔少女
感想:描きたい「イメージ」から始まる物語
諸星大二郎先生は、中川いさみ先生の『マンガ家再入門』の中で、「描きたいイメージが最初にあり、そのイメージを漫画を描くためのネタを組み合わせていく」と語っています。
今回は『BOX』のあとがきで「興子(キョウコ)を描きたい」と思ったことから連載を始めたと言っています。
その言葉通り、興子は1巻ではあまり出番がないものの、インパクトはどの登場人物よりも強いです。
興子の登場シーンは木の上で裸足。そしてこれから不思議な現象が起きる光二の学校を双眼鏡で覗いている……。
登場から怪しいオーラを醸し出している彼女ですが、登場するたびに怪しさは増していきます。
作中で彼女の表情は常に笑っており、口角の端が常に上がっている。
常に笑顔なのは、不思議なことが起きている状況を「楽しんでいるから」でしょう。
そんなちょっと危険なキャラクターとしての魅力が溢れています。
読者を無理やり引き込む「漫画の力」
『BOX』というタイトルの通り、登場人物たちは巨大な箱へと誘われます。
入ることを嫌がった神宮には回避することが出来ない力が働き、強制的に巨大な箱の中へと入れられ、物語は始まるのです。
そして登場したばかりの谷夫妻のいきなりの展開には度肝を抜かれ、そのまま諸星大二郎先生の世界へと引き込まれていきます。
この漫画を何度か読み直すと、「話をすすめるために無理やり読者を引っ張っていっている」ような感覚があります。
しかしそれはネガティブな意味ではなく、物語を次の展開へと持っていこうとする「先生の漫画の力(パワー)」なのだと思います。
セリフが多くても読ませる「画力と雰囲気」
『BOX』はコマ割りと会話の多い作品なのですが、読者はストレスなく読むことが出来ます。
まるで会話のほとんどない漫画と同じように、ページを流しても読めるだけの「絵の力」があるからではないでしょうか。
影での雰囲気の作り方、細かい描写、絵から与えられる印象とキャラの小さな表情の変化。
それらがあるからこそ、何となく会話を流し読みしても、状況やキャラの心情変化が分かるようになっているのです。
この作品では、登場人物たちがパズルや迷路といったお題を解くことで先に進めますが、ただお題をクリアするだけでは漫画は面白くなりません。
そこで物語を面白くかき回すのが興子であり、興子を排除するために登場する化け物を解き放つ魔少女です。
彼女たちによって物語に緩急やテンポがつくられています。
この作品の魅力は、諸星先生の描く背景や細かい描写によって醸し出される「不思議な空気感」です。
それは単純な恐怖ではなく、「なぜあんなことが?」と思わせる世界観や、閉じ込められた箱の謎そのものです。
なぜか光二だけがどの扉も開けることが出来る謎や、箱についての謎。
これらが完全に解き明かされるかは疑問ですが(笑)、面白いオチがあることを信じて次の巻を買うとしましょう。





