「疲れているから、難しいストーリーは追いたくない」
「でも、ただ可愛いだけの漫画じゃ物足りない」

そんな時におすすめなのが、全6巻で完結しているギャグ漫画『じょしらく』です。

原作は『さよなら絶望先生』や『かくしごと』の久米田康治さん。
作画は『とらドラ!』の挿絵などで知られるイラストレーターのヤスさん。

「毒のある会話劇」と「究極に可愛い絵」が組み合わさった本作は、5人の女性落語家が楽屋でうだうだと喋っているだけ……なのに面白い、不思議な中毒性のある作品です。

じょしらく 第1巻
じょしらく 第1巻

『じょしらく』のポイント

  • 落語はしない:楽屋での「無駄話」がメインの日常系
  • 絵の魔力:ヤスさんの描く女の子がとにかく可愛い
  • 毒のある笑い:久米田節(時事ネタ・皮肉)が満載

「落語」ではなく「楽屋」を楽しむ漫画

この作品のスタンスは、第1巻の冒頭に書かれたこの「お断り書き」に集約されています。

この漫画は女の子の可愛さをお楽しみ頂くため、邪魔にならない程度の差し障りのない会話をお楽しみいただく漫画です。

原作者の久米田さんが(自称)落語にそれほど詳しくないためか、物語は基本的に「楽屋裏」で展開されます。

話の冒頭で「おあとがよろしいようで」と高座から降りてくるシーンはあるものの、そこから先は延々と日常会話が続くだけ。

しかし、その「当たり障りのない会話」が、ページが進むごとにどんどん「久米田節」に侵食されていくのが本作の醍醐味。

最初はただ可愛いだけだったキャラクターたちが、政治ネタからメタ発言まで、無茶苦茶なことを当たり前に喋り始めます。
ヤスさんの描く可愛らしい絵柄とのギャップが、シュールで濃い笑いを生み出しています。

イラストレーター・ヤスさんの「視線」の技術

ストーリーだけでなく、絵の構図にも注目です。
例えば、コミック1巻の最初にある『蕪羅亭 魔梨威(ぶらてい まりい)』の扉絵。

お辞儀をしている彼女の目は、まっすぐ読者を見据えています。

よく見ると、左目が少しだけ上がり、利き目であるかのように前に突き出るような力強さを感じさせます。さらに左手も少し前に置かれていることで、平面の絵なのに「グッとこちらへ迫ってくる」ような錯覚を覚えます。

ただ可愛いだけでなく、こうしたイラストレーターならではの技術が随所に光っているのも、この作品がついつい読み進めてしまう理由の一つでしょう。

アニメ版もすごい!

本作はアニメ化もされており、監督は『ガールズ&パンツァー』などで有名な水島努さんが務めました。

原作が「楽屋から出ない」漫画であるのに対し、アニメ版ではAパートとBパートの間に、5人が東京の街をぶらりと歩き回るシーンが差し込まれています。

「漫画を読む元気すらない……」という時は、アニメ版を流し見するだけでも十分に癒やされますし、東京散歩の気分も味わえます。

登場人物(5人の落語娘)

名前は全員、落語に関するダジャレになっています。

  • 蕪羅亭 魔梨威(ぶらてい まりい):主人公ポジション。江戸っ子口調だが徳島出身。「Bloody Mary」が由来。
  • 空琉美遊亭 丸京(くうるびゆうてい がんきょう):クールで眼鏡。「Cool Beauty」+「眼境」。
  • 波浪浮亭 木胡桃(はろうきてい きぐるみ):あざとい可愛さ。「Hello Kitty」+「着ぐるみ」。
  • 防波亭 手寅(ぼうはてい てとら):ツッコミ役で運が良い。「防波堤」+「テトラポット」。
  • 暗落亭 苦来(あんらくてい くくる):ネガティブ担当。「安楽死」+「括る(首を)」。

第1巻の内容と元ネタ(ネタバレあり)

各話のタイトルは、有名な古典落語の演目をもじったものになっています。
タップすると各話のあらすじが開きます。

▼ 1日目〜9日目のあらすじ(クリックで展開)

1日目:犬と猫の災難
(元ネタ:猫の災難)
木胡桃が楽屋に入るなり、「犬派?猫派?」と聞き始める。
落語において犬猫といえば「三味線の革」。動物愛護の話かと思いきや、楽器の素材の話へと転がっていく。

2日目:叫び指南
(元ネタ:あくび指南)
「海と山どちらが好き?」という会話からスタート。
なぜか「どこで死ぬか」「山のアイスマン」「海と山の掛け声の民度」へと話が脱線し、最後には政治ネタへ。
女の子の可愛さを楽しむ漫画のはずが、2話目にして早くも際どい久米田節が漏れ出す。

3日目:楽屋の富
(元ネタ:宿屋の富)
魔梨威の「つまんねー事聞くなよ」というお決まりのセリフから始まるが、まだ誰も何も聞いていない。
くじが当たったらどうするか?という夢のある話のはずが、「この中に当たった奴がいるんじゃないか」という疑心暗鬼へ。

木胡桃が「ヨーグレットで家を建てる」という期待通りのあざとい答えを出す一方で、他のメンバーは「真犯人を見つける(手寅)」「借金を返す(丸京)」など生々しい。

4日目:風邪娘
(元ネタ:風邪うどん)
丸京が楽屋に入ると、他の全員がプロレスの覆面のようなマスクをして「フゴフゴ」言っているというシュールな出だし。
新型インフルエンザの話から、なぜか妊娠の話へと飛躍する。

5日目:娘ほめ
(元ネタ:子ほめ)
苦来がいきなり「私と落語どちらが大切なの」と面倒な彼女のようなことを言い出す。

彼女へのフォローと景気づけのためにクリスマス会の話になるが、異教徒扱いされたり、謎のおばさんたちが小太鼓を叩いて入ってきたりとカオスな展開に。
(『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』の宗教ネタがわかる読者がどれだけいるのか……)

6日目:こがね袋
(元ネタ:堪忍袋)
お正月ネタ。お年玉の話。
魔梨威が「あけましておめでとうございます」と言おうとするも、「す」しか言わせてもらえない。「事の残るものには福がある」というオチが綺麗。

7日目:無情風呂
(元ネタ:浮世風呂)
バレンタイン回。みんなが好きな人を「海老蔵」と答える中で、魔梨威は「チョコはあげるんじゃなく貰うものだ」と自慢。
そのせいで「実は男なんじゃないか?」という疑惑を持たれ、それを払拭するために苦労することに。

8日目:ヤンキー怖い
(元ネタ:饅頭怖い)
3月8日、ひな人形をしまい忘れると婚期が遅れるという話からスタート。
「ヤンキーは早婚だから、ヤンキーになればいい」という、とんでもないロジックで話が直滑降していく。

9日目:ねごと
(元ネタ:寝床)
魔梨威の座右の銘は『果報は寝て待て』。
うつらうつらと寝たり起きたりを繰り返し、寝言で言ったことが現実に再現される不思議な話。
荘子の「胡蝶の夢」というよりは、ヨーロッパの「竜の夢」に近いネタ。

まとめ:疲れた大人への処方箋

『じょしらく』は、大きな事件も起きなければ、感動的な成長も(あまり)ありません。

でも、だからこそ「読むのにエネルギーがいらない」という大きな魅力があります。

仕事で疲れて帰ってきた夜、何も考えずにページを開いてみてください。

着物を着た可愛い女の子たちが繰り広げる、どうしようもない無駄話が、凝り固まった頭をほぐしてくれるはずです。