絵日記を開いた瞬間、日本の風景が静かに語りはじめる。
NHKのBSハイビジョンで放送されていた「列島縦断 鉄道12000kmの旅」。
これはただの旅番組ではなく、日本という国の鼓動に、旅人・関口知宏さんがひたむきに耳を澄ませた43日間の記録だ。
この旅は、JRの路線を使い、同じ線を二度と通らず、一筆書きのように日本を縦断していくというロマンあふれる企画。
その道中で関口さんが選んだ記録方法が、クーピーで描いた「絵日記」であった。

作品情報
| タイトル | 列島縦断鉄道12000kmの旅 絵日記でめぐる43日間 |
|---|---|
| 著者 | 関口 知宏 |
| 出版社 | 徳間書店 |
| ジャンル | 紀行 / イラストエッセイ |
| こんな人におすすめ | ・旅と鉄道が好き ・温かいイラストに癒やされたい ・NHKのあの番組が好きだった |
「うますぎない」からこそ伝わる体温
この絵日記が、とにかく温かい。
絵はプロのように“うますぎない”からこそ、逆に「関口さんの目を通して見たもの」の生々しさや体温が伝わってくる。
ページをめくるたびに、風の匂い、空の色、土地の湿度まで胸の奥ににじんでくるような感覚になる。
気づけば、「自分もこんなふうに旅に出て、絵日記を描いてみたい」と素直に思ってしまう。
本を眺めながら、関口さんが見て、感じた世界が、ゆっくりとこちらの心にも入り込んでくるのを感じる。
本の構成とページをめくる楽しさ
本の構成はとてもシンプルだ。
- 関口知宏さんの絵日記
- 乗り換え駅の名前と写真
- 43日間の行動記録
全体で100ページ少々。
右ページに絵日記、左ページにコメントや旅のしおりが並び、誰が読んでも流れが分かりやすい作りになっている。
文章をじっくり読まなくても、絵日記だけを追っていくだけで、旅の温度が伝わってくるのがこの本のすごいところだ。
自分が暮らしている場所の駅や、行ったことのある駅が出てくると、胸がふっと熱くなってしまう。
「あ、ここ知ってる」と思った瞬間、そのページを何度も開いてしまうのは、旅の本ならではの楽しみだろう。
特に心に残った2つの絵
数ある絵日記の中でも、特に私の心に残っているのが2つのページだ。
11日目・南気仙沼〜小高の間「池にかかる赤い橋」
ひとつめは、11日目、南気仙沼から小高へ向かう途中の「池にかかる真っ赤な橋」の絵。
水面に映る赤が、静かな景色の中で強く印象に残る。
絵なのに、そこに流れている時間の音まで聞こえてくるような、不思議な静けさがあるのだ。
今はなき餘部鉄橋を走るSLの夜景
もうひとつは、餘部鉄橋(あまるべてっきょう)の絵日記。
今はもう見ることのできない鉄橋の上を走るSLの夜景が描かれている。
夜の闇を切り裂くように走り抜けるSL。その姿を、関口さんがどんな気持ちで見ていたのか。
ページを眺めていると、「一度でいいから本物を見てみたかった」という、少し悔しいような、せつないような、それでいて温かい気持ちが静かにこみ上げてくる。
まとめ:絵日記が呼び覚ます「旅ごころ」
ページを閉じたあとも、旅の匂いがまだ指先に残っているような感覚があった。
テレビ番組としての「列島縦断 鉄道12000kmの旅」を知っている人も、知らなかった人も、この絵日記本を開けば、自分の中の「旅ごころ」がそっと目を覚ますはずだ。
旅が好きな人、鉄道が好きな人、そして絵日記が好きな人。
どれかひとつでも当てはまるなら、この一冊はきっと、静かだけれど深く、あなたの心に残ると思う。
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