1970年代らしいSF感と諸星大二郎らしさのある不思議な怖さがある短編の男女の関係が絶妙に描かれている

諸星大二郎の漫画『失楽園』失楽園 地獄篇 天堂篇 アダムの肋骨 貞操号の遭難 生物都市 詔命
マンガ少年や週刊少年ジャンプと出版社を横断した様々な作品がひとまとめになっている。タイトルとなっている失楽園は『地獄篇』と『天堂篇』の2つの話となっており、ダンテの『神曲』をパロディとなっているのはなんとなく神曲を知っている人ならわかる話になっており、特に天堂篇に出てくる門を見て地獄の門のパロディであることは見ているだけでもわかるような文章が書かれている。

『アダムの肋骨』『男たちの風景』『貞操号の遭難』はSFではあるが中心にあるのは男と女の心の部分にSFを肉付けしているような作品、『生物都市』は宇宙でほかの宇宙文明に出会って帰ってくることで人類が滅亡するのかというのは時代を感じさせられる展開。

諸星大二郎さんの漫画『失楽園』目次と簡易の内容

【発行】1988年5月15年

【 目次 】

・失楽園 地獄篇(1978年 マンガ少年7月)
・失楽園 天堂篇(1978年 マンガ少年8月)
・アダムの肋骨(1976年 月刊プレイコミック1月号)
・男たちの風景(1976年 月刊プレイコミック2月号)
・貞操号の遭難(1975年 別冊問題小説秋季号)
・生物都市(1974年 週刊少年ジャンプ31号)
・詔命(しょうめい)「礎を改題」(1978年 漫画アクション増刊6月号)
・マンハッタンの黒船(1978年 少年ジャンプ増刊4月号)

・失楽園 地獄篇(1978年 マンガ少年7月)
世界中にあった都市は滅び、荒野とスティージェの沼だけが人々のせい生活圏として細々と沼のまわりに人々はどうにか生きていたが、昔話に伝わる幸福の沼から来たという男が現れる。
男は愛を説くが人々は幸福の沼を教えない男をペテン師とののしり殺してしまう。同じときにララも大クモに殺され、ダンは幸福の沼の探して荒野に歩き出す。
 
 
・失楽園 天堂篇(1978年 マンガ少年8月)
門を越え、レーテの町へとたどり着くダンだがどうしても町の掟がのみこめず、ここが楽園なのかという疑問をさしはさんでしまうのだが、ララと同じ目をしたリーチャとの会話と死によって楽園に対しての答えを見つける。
 
 
・アダムの肋骨(1976年 月刊プレイコミック1月号)
宇宙船が不時着した星に生息している胴体が女に見える鳥、だれもかれもが鳥の胴体が自分の知っている女の顔に見える。宇宙船が修理されるまで鳥との交流をするのだがそこに女を感じる。
 
 
・男たちの風景(1976年 月刊プレイコミック2月号)
鉱脈ボーリング技師として惑星マクベシアへ仕事に来た男、この星には3種類の人間を見る。美しい浮気な女、くたびれた老人の姿の夫、美しい若者たちがいる。美しい男も結婚をするとあっという間に若さを失い性格も疑い深くなっていく。男は短い間しかいないことを言い訳に女と関係を持ってしまう。
 
 
・貞操号の遭難(1975年 別冊問題小説秋季号)
男性の無気力化と社会の停滞から世界女性リーダー会議により宇宙へと男性種を求めに行く。貞操号は未知の惑星で植物的な進化をした男を見つけるのだが。
 
 
・生物都市(1974年 週刊少年ジャンプ31号)
198×年の初夏、木星の第1衛星のイオからかえってきた宇宙船の乗員が船に溶け込み生物と機械がまじりあった存在となっていた。この変異は金属を通して町へと広がっていく。イオに存在した機械文明が生き残るために選んだ選択が地球にも広がっていく。
 
 
・詔命(しょうめい)「礎を改題」(1978年 漫画アクション増刊6月号)
地震予防課に移動となった贄田、送別会の次の日起きると左目が疼くようになり眼帯をして新たな課に行ってみると課長と自分だけの部署で単調な書類づくりをするようになり、なぜか今までとは違う額の給料が振り込まれるようになると車やマンションと生活が変わっていく中で課長と本庁に出張をすることになるのだが。
 
 
・マンハッタンの黒船(1978年 少年ジャンプ増刊4月号)
アメリカ新暦九十九年、日本の原子力艦「佐助花丸」がニューヨークの港に近づき開国を迫り日米和親通商条約の調印をさせるために鎖国をしているアメリカにあらわれるという日本とアメリカの立ち位置を変えた作品。
 

【感想】(ネタバレあり)

・失楽園 地獄篇(1978年 マンガ少年7月)・失楽園 天堂篇(1978年 マンガ少年8月)
 
気づけば、地上にあった大きな都市が次つぎと消えていき生き残った人類はスティージュの沼のまわりでかろうじて生き残っているというモノローグから始まる「失楽園」、原始的な生活をする中、幸福の沼から来たという男が荒地の向こうから現れ、死にそうな子供を助け、神の教えを説くのだが人々が求めるのは幸福の沼への生き方だけでついには男を殺してしまう。同時刻に沼に住む少女ルルが大クモに襲われなくなり、ダンは荒野の先にある幸福の沼を求めて旅にでてレーテの町の門へとたどり着く。
 
楽園の中には様々な絵画のオマージュが描かれており、どこかで見たことがある構図が見受けられるがそれはさておき、人々がギリギリの生活をしている中で荒野から男が現れ、奇跡を起こし、神の教えを説くというまさにイエス・キリストのパロディでこの男のラストもまたイエスのように人々によって殺されてしまう。
お話がイタリアの詩人で政治家であったダンテの作品『神曲』をもとにしており、キリスト以前以後とダンテにとってのベアトリーチェがなくなり地獄をめぐるまでの物語を、失楽園の主人公ダンがルルを大クモによって失い、荒野であった男にレーテの町の門まで案内されるという展開にして描かている。
 
神曲では地獄篇、煉獄篇、天国篇と3つのパートに分けられているが、諸星大二郎も地獄篇と天堂篇の間に浄罪篇を入れたかったと言っているがそこは省かれレーテの町の門をくぐることで天堂篇が始まっている。

諸星大二郎さんの漫画『失楽園』登場人物

◆ コミック(失楽園) 失楽園 地獄篇(1978年 マンガ少年7月)
 
・ララ 大グモに襲われた女の子
・ダン 男の子
・サライ 子供がよみがえった母親
・幸福の沼から来たという男
 
◆ コミック(失楽園) 失楽園 天堂篇(1978年 マンガ少年8月)
 
・リーチャ ララに似た女性
 
 
◆ コミック(失楽園) アダムの肋骨(1976年 月刊プレイコミック1月号)
 
・ハーピー 胴体が女の顔に見える鳥
・ウェート ハーピーに興味を持たれ昔の女を思い出す男 
・博士 ハーピーに興味をもちタイプライターを打たせる
・ピエル 不時着で大けがをした男
  
 
◆ コミック(失楽園) 男たちの風景(1976年 月刊プレイコミック2月号)
 
・技師(1シーズンだけ惑星マクベシアで鉱脈を探す仕事をする)
・バーテンダー(サイボーグ化しているバーの主人)
・メンマ (技師が過ちで寝た女)
・メンマの旦那(3人目の子供が生まれる)
・ミツ子 技師の子供を孕んだ女性
・所長
 
 
 
◆ コミック(失楽園) 貞操号の遭難(1975年 別冊問題小説秋季号)
 
・ケイ(長髪で意志の強い女性)
・リサ(貞操号に乗っている仲間で植物のような男を調査しに行く)
・マリ(貞操号に乗っている仲間)
・植物のような男(催眠術で生物を操り女たちにタネを運ばせる)
・植物のような女たち(植物のような男の恋人)
 
 
 
◆ コミック(失楽園) 生物都市(1974年 週刊少年ジャンプ31号)
 
・広明(宇宙船を見に行く男の子)
・おじいちゃん(神経痛で老いを嘆いている広明のおじいさん)
・森にすむおじさん
・高木教授(宇宙船の中まで行き真相を聞く)
・博士(顕微鏡と溶け合う)
・坂本(異変を見てギリシア神話を思い出す)
・広明のパパ(異変になりながらも事態を町へ伝えに行こうとする)
・イオの住民(機械と生物が1つの生命としてとけあっている)
 
 
 
◆ コミック(失楽園) 詔命(しょうめい)(1978年 漫画アクション増刊6月号)
 
・贄田生男(地震予防課に勤務変更となる)
・山田安貴子(贄田と関係を持った女性)
・老人(郷土史を調べている人、落としていった『書籍「一つ目小僧その他」柳田国男』)
・室井恭蘭(江戸時代の国学者)
 
 
◆ コミック(失楽園) マンハッタンの黒船(1978年 少年ジャンプ増刊4月号)
 
・リオ・サカモド(テキサスの脱州者)
・少年(リオに助けられる)
・緑井提督(佐助花丸艦長)
・張津根四郎(全権大使兼総領事)
・永大大統領(アメリカ国民の精神エネルギーの集合体)
・トック・ガワン(ニューヨーク市長)
・ヴァン・ペイター(カルフォルニア過激攘和派盟主)
・E・カモン(副大統領)
・カーク・カシュー(大統領秘書官)
・サイモン・タクモリー(フロリダの人間)
・キッド(カルフォルニアを開国派に扇動した)
・マッチ(N・S・Pが来たことをキッドに教える)
・サミー・コンドック(N・S・Pの隊長)
・ヒッティ・カッター(N・S・Pの副長)
・ジョージ・オッキンター(N・S・Pの一番隊長)
・山田さん(日本商館で殺される人)
・鈴木さん(日本商館で殺される人)