あの日は気づけなかった。数年後の私は、オードリーの“衝撃”に出会った。

写真集 オードリー・ファッション物語
アルバム オードリー・ヘップバーン

 

オードリー・ヘップバーンを初めて見たのは、中学生の頃でした。

映画『ローマの休日』で、新聞記者を演じるグレゴリー・ペックが「真実の口」に手を入れて抜けないふりをする、あの有名な場面だけが強く記憶に残っています。当時の自分には、オードリーそのものの印象はまったく残っていませんでした。

それから数年後、テレビCMでオードリーの映像を目にした瞬間、まるで雷に打たれたような衝撃を受けました。

映画のワンシーンが切り取られた映像で、画面の中のオードリーが動き出した途端、「こんなに綺麗な人が世の中にいるのか」と言葉を失いました。昔は感じなかったのに、今は強烈に惹かれる――それは、自分の成長と感性の変化があったからなんだと思います。

片田舎で育った自分にとって、学校や通学路で見る人の中に、オードリーのような“品格”を感じることはありませんでした。比べるのはおかしいとわかっていても、彼女には美しさだけでは語れない、不思議な気品がありました。

後になって『ティファニーで朝食を』を観たとき、彼女が演じるホリー・ゴライトリーの大人びた雰囲気に驚きました。

『ローマの休日』のあどけなさとは違う、自由に生きながらもどこか満たされない複雑さを見事に演じていて、同じ女優なのにこんなにも表情が変わるのか、と感心したものです。

8年ほどの時を経て、彼女の印象は変化しているのに、なぜか変わらない“何か”がある。それは、オードリーが生まれ持つ品格なのか、あるいはシンプルで洗練されたファッションがそう見せるのかもしれません。

多くの映画で彼女の衣装はシンプルで、過度な装飾がありません。もちろん『マイ・フェア・レディ』のように華やかなものもありますが、『麗しのサブリナ』以降はシンプルな美しさがより際立ちます。

個人的に一番好きなのは、『麗しのサブリナ』でフランスへ行く前、ジャンパースカート姿のオードリーの写真です。イーディス・ヘッドが衣装を手掛けたその姿は、白黒写真にも関わらず強烈な存在感があって、裸足でロールス・ロイスの前に立つ表情は、まるで挑むような強さを宿しています。思わずパソコンの壁紙にしたくなるほど素敵です。

写真の好みでいえば、口を閉じて少しだけ目線を外したオードリーが好きです。若い頃の歯を見せる笑顔は、なぜか違和感を感じることもありますが、歳を重ねた写真ではその違和感も消え、むしろ柔らかい魅力が出ています。

髪型も彼女らしさのひとつ。ショートやまとめ髪などが多く、日本では当時かなり斬新だったはずなのに、すぐに流行したというのがすごい。オードリーの人気の高さがよくわかります。

『ローマの休日』から60年以上経っても、広告に使われる写真を見れば一瞬でオードリーだとわかる。こんな女優は、今の時代ではマリリン・モンローくらいしか思い浮かびません。

写真集を開くたび、彼女の美しさもファッションも髪型も、時代を超えて色あせない。そこにあるのは、永遠に愛される人だけが持つ“品格”なのだと思います。

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