子供の頃に言ったことがない路地や入れない建物、成長して忘れてしまった小さなときの不思議な体験とノスタルジーと漫画が噛み合っていくことが面白さにつながる作品。
何てことな12月生まれの柊(しゅう)は少し変わった感性を持つ両親、幼馴染の女の子葵(あおい)、葵のイトコの桜姉ちゃんたちと過ごす日常の中で小さなことから色々なことを考えてしまう多感な小学四年生。超能力もなければ宇宙人も来ない何の変哲もない小学4年生の男の子の何気ない出来事からの想像や体験を描いた4コマ漫画である。
【タイトル】12月生まれの少年
【作者】施川ユウキ
【巻数】3巻
【出版】2011年完結
【年度】竹書房
全3巻で完結しています。
このマンガの面白さは柊が想像と考えが読者のノスタルジーと合致するところにある。詩的で風情があるから旧暦が好きだと言いながらも師走だけは「忙しくて坊さんも走る」という意味に興ざめし、動く虹を思い浮かべて恐怖する。家族全員が五月人形の鎧を着てみたい思う。
そんな男の子の柊の何気ない生活。
何気ない出来事、何気ない考えを4コマとして切り取り描いているものばかり、彼らの生活を漫画として眺めていると、自分も子供のころに似たようなことを感じていた気がしてくる話がいくつも出てくることに懐かしさを感じることがある。
小学生のことは何にでも興味を持ち、誰もいない部屋聞こえる物音に怖がる。そんな子供時代が自分にもあったそんな経験を子供のころにしたことがあるそんな気持ちになって読んでいる自分がそこにいるのがとても不思議な感じがである。
子供のころとは何にでも興味を持ち小さなことに想像力を働かせていた気がする。
学校の人が入ることができない教室や荷物を運搬するエレベーター、不思議な外見の建物の中では何が行われているのか。通学路から一歩外れた通ったことがない道の先はどうなっているのか。
大人になると何でも無いことに、無限の想像力で妄想をするそんな姿は幼かった自分と照らし合わせて読んでいると、だんだんと柊と被って見えてくる。
「12月生まれの少年」という漫画が懐かしくも面白い漫画として読めた。
全3巻の中で気に入っている話は2巻の「田舎に行った少年」という話、引っ越しの経験のある僕は最もノスタルジーを感じる。僕は引っ越してすぐに小学2年生の自分が家の周りを自転車で走った時に感じた未知への冒険にたいしてのドキドキ、すべてが知らない建物、知らない人、いったこともない道を進み迷子になることも気にせずにあっちこっちに行った。
今考えれば近所をぐると廻った距離も当時はずいぶん遠くに行ったと感じていた。
知らない場所で経験するすべてに凄いことを妄想していたことを覚えている。そんな僕の経験は柊が知らない田舎を歩き回っている姿と重なり、わかるわかると心の中で思っていた。
読んでいて様々なところで主人公である柊に共感をして読んでいる僕がいたことに読み終わってから気づく。冷静に考えれば小学四年生の僕はこんなにいろいろのことを考えているような子供だっただろうかと、作者が2巻のあとがきに自分はもっと能天気なこどもだったと書いてあるのを読んだとき、僕が頭の中でノスタルジーを作り出していることに気づく。
不思議なもので僕が作り出したノスタルジーは小学生時代と中学生時代の出来事、テレビや漫画、小説から想像した経験がサラダボウルの中でごちゃごちゃに混ざられて出されたサラダが僕の感じたノスタルジーなのだと感じる。
だからこそ自分が感じたことがない内容に懐かしさを感じ、楽しむことが出来る。
昔、映画の「クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲」やゲームの「ぼくのなつやすみ」でノスタルジーを感じて楽しいと思ったことを思い出した。映画、ゲームの取り扱っている時代を自分は知らない。でも、そこにノスタルジーを見出して懐かしいと感じることが出来る。
ノスタルジーという価値観が自分の経験や読書や映像の記録と混ざり合い生まれている。
そのおかげで12月生まれの少年」はある程度の年齢を超えた人には懐かしい漫画として読むことができる作品として読めた。