
戦前の映画を見る機会は、今の世の中ではほとんど存在しないだろう。
昔の映画というと、白黒で、下手をすると音声もなく、活弁士が読み上げるような作品である。そんな作品を地上波のテレビで放送することはまずないし、レンタルビデオ店でもなかなか見つからない。それでも、BSの専門チャンネルなどでは時折放映されていると聞いたことはあるのだが、少なくとも私は実際に見たことがない。
唯一の経験といえば、何かのイベントで上映されていたものを観たことがある程度である。
そんなわけで、昔の映画女優たちは、私にとっては名前を聞いたこともなければ顔を見たこともない女優ばかりだ。それでも「戦前の美人女優とは、いったいどんなものか」と気になり、このスチール集を眺めてみることにした。
時代の流れというものは、「美人」の定義を少しずつ変えていく。しかし、この本に載っているスチール写真を眺めていると、どうにもその「時代の差」を強く感じさせられる。
白黒写真であることに加え、撮影用のメイクのせいか、女優たちの顔はとても白く、時には不気味さを感じるほどだ。顔の反対側からもライトが当てられているのだろう、鼻の影がすっかり消えてしまい、立体感が薄れている写真も多い。とはいえ、すべての写真がそういうわけではなく、美しい顔の輪郭をきちんととらえた写真もあり、そのあたりの差異も面白い。
よく見ると、もう100年近く前の女優たちであるにもかかわらず、眉毛はきれいに手入れされ、目の上に細く描かれている。その細い眉からも、時代ごとの流行や美意識の変化を感じ取ることができる。
衣装についても、さすがに昔の作品だけあって、多くの女性が着物姿であり、映画の多くは時代劇である。こうした光景が当たり前だった時代があったことを思うと、今の映画とのギャップに少し驚かされる。
この本の中には、わずかではあるが水着姿のスチールも載っている。ところが、この水着こそが一番分かりやすく「時代の移り変わり」を感じさせてくれるポイントでもある。
今の感覚からすると、シルエットやデザインに「昔っぽさ」がありありと出ていて、それが逆に味わい深い。
載っている女優たちの中では、八雲恵美子が、私のいちばんの好みであったことを、最後に記録しておこう。





