「昔の美人は、今の感覚で見ると少し違うのではないか?」
古い写真を見て、そんなふうに感じたことはないだろうか。
今回取り上げるのは、戦前の銀幕を彩ったスターたちを集めた『日本映画スチール集 美人女優 戦前編 完結版』だ。
白黒映画時代の女優たちの姿は、現代の我々から見ると「不気味」と紙一重の妖しさすらある。
しかし、ページをめくるうちに、その違和感こそが「失われた日本の美意識」であることに気づかされる。

作品情報
| タイトル | 日本映画スチール集 美人女優 戦前編 完結版 |
|---|---|
| 編集 | 石割 平 |
| 出版社 | ワイズ出版 |
| ジャンル | 写真集 / 映画資料 |
| こんな人におすすめ | ・レトロなメイクやファッションが好き ・昭和初期の雰囲気に浸りたい ・「美」の基準の違いを知りたい |
100年前の「美人」を解剖する3つの視点
戦前の映画を見る機会は、現代ではほとんど存在しない。
だからこそ、このスチール集から読み取れる「当時の常識」は新鮮な驚きに満ちている。
1. なぜ顔が「白く、平たい」のか?
写真を見て最初に感じるのは、女優たちの顔の「白さ」だ。
時には不気味さを感じるほど白く、鼻の影すら消えてしまっている。
これは当時の撮影技術(白黒フィルムの感度)や照明によるものだが、同時に「立体感よりも、陶器のような肌の滑らかさ」が美とされていた証拠でもある。
現代のメイクが「立体感(シェーディング)」を重視するのに対し、当時は「平面的な美」が求められていたのだろう。
2. 「細い眉」と「着物」の美学
女優たちの眉毛は、驚くほど細く、綺麗に整えられている。
この一本の線のような眉と、ほとんどの女優が身につけている「着物」の組み合わせが、戦前の日本映画独特の艶っぽさを生み出している。
現代の映画では見られない、完成された「和装の所作」や美意識が、スチール写真一枚一枚から漂ってくるようだ。
3. 水着姿に見る「時代の隙間」
本書には、貴重な水着姿のスチールも掲載されている。
ここが一番「時代の差」を感じるポイントだ。
布面積が大きく、デザインもシルエットも、今の感覚からすると「野暮ったい」かもしれない。
しかし、その野暮ったさの中に、西洋文化が入り込み始めたばかりの時代の「恥じらい」と「大胆さ」が混在していて、逆に味わい深い。
個人的イチオシ女優:八雲恵美子
最後に、私の個人的な好みを記録しておこう。
数ある美人女優の中で、いちばん目を引かれたのは八雲恵美子(やくも えみこ)であった。
松竹のスターとして活躍した彼女の、凛とした佇まい。
「美人の定義」は時代とともに変わるが、彼女の持つ雰囲気には、現代に通じる普遍的な美しさがあるように感じた。
まとめ:美の基準は「作られる」もの
この写真集を眺めていると、「美人とは何か」という問いにぶつかる。
今の我々が「美しい」と思っている顔も、100年後の未来人から見れば「変なメイク」と言われるかもしれない。
自分の生きている時代の「美のフィルター」を外し、タイムスリップするような感覚で楽しめる一冊だ。
歴史資料としてだけでなく、パラパラと眺める画集として手に取ってみてはいかがだろうか。
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