子供の頃、不思議な体験をしたことはありませんか?

夜、遠くから聞こえる正体不明の音。
いつもの通学路で、ふと迷い込んだ知らない道。
「今日は雪が降る」となぜか直感で分かったあの日。

今回紹介するのは、そんな「記憶違いかもしれないけれど、確かにあった不思議」を描いた漫画。
『ヨコハマ買い出し紀行』の芦奈野ひとし先生が描く、『コトノバドライブ』です。

主人公だけが体験する「5分間」の非日常。
読み終わった後、なんとも言えない懐かしさが胸に残る。全4巻の傑作です。

コトノハドライブ 全巻の表紙
コトノハドライブ 全巻の表紙

コトノバドライブ

  • 作者:芦奈野ひとし
  • 出版社:講談社(アフタヌーンKC)
  • 巻数:全4巻(完結済)
  • キーワード:日常、不思議、ノスタルジー

「だれにも言わない、わたしの5分」

この漫画のキャッチコピーです。
主人公の「すーちゃん」は、ふとした瞬間に「5分間だけ」不思議な世界を体験する体質を持っています。

過去の風景が見えたり、未来の音が聞こえたり。
あるいは、そこにあるはずのない霧に包まれたり。

日常のレールを走っていたはずが、ポイント切り替えのように「非日常のレール」へ入り込み、5分経つとまた日常に戻る。
この「レールのズレ」こそが、本作の面白さの正体です。

作者は、日常と不思議の境界線を明確には描きません。
「あれ、今の何だったんだろう?」
読者もすーちゃんと同じように、日常に戻ってからその違和感(5分間の出来事)に気づく。
この静かな演出が、違和感すらも自然に受け入れさせてしまうのです。

「ホラー」と「癒やし」の境界線

この作品のすごいところは、「普通に描けばホラーになるネタ」を扱っている点です。

  • 夜、決まった時間に遠くから謎の音が聞こえる
  • 廃道にある壊れた自動販売機に、なぜか電気がついている
  • 見知らぬ「おじさん」に何度も出会うが、正体がわからない

これ、文字だけで見ると完全に怪談ですよね?
普通なら「怖い話」として分類されるはずの内容です。

しかし、芦奈野ひとし先生の絵と空気感にかかれば、それは恐怖ではなく「ノスタルジー」に変わります。
オカルトになりそうな題材を、優しい筆致と独特の「間(ま)」で描くことで、「不思議で懐かしい物語」へと着地させる。
このバランス感覚は、作者の技量以外の何物でもありません。

子供の頃の記憶を刺激する

読んでいて湧き上がってくるのは、子供の頃の曖昧な記憶です。

「あの時見た景色は、夢だったのかな?」
「あの友達、本当にいたのかな?」

大人になるにつれて忘れてしまった、あるいは「勘違い」として処理してしまった記憶。
『コトノバドライブ』は、そんな記憶の蓋をそっと開けてくれます。

すーちゃんの独白(モノローグ)は、まるで5分間の出来事をあとから日記に書いているかのように淡々としています。
それが逆にリアリティを生み、「自分にもこんな5分間があったかもしれない」と思わせてくれるのです。

まとめ:静かな夜に読み返したい漫画

全4巻という短さも、この作品の儚い空気感に合っています。
1話1話が短編のように完結しているので、寝る前に少しずつ読むのに最適。

派手な冒険はないけれど、読んだ後に心が少しだけ軽くなる。
日常に疲れた時、すーちゃんの「5分間」を覗いてみてください。
きっと、忘れていた大切な感覚を思い出せるはずです。