芦奈野ひとしさんの全4巻の『コトノバドライブ』の感想です。

まずはこの漫画の面白さは作者の高い漫画力で描かれた絵と作品全体に流れる空気であり、読者の子供の頃の不思議なことを体験したことの記憶から出てくるノスタルジーが漫画の面白さを作り出している。

ここでのノスタルジーとは子供の頃に体験した夜遠くから聞こえた謎の音、一緒に遊んだけど名前も知らない友達、なぜこんな場所にと思う自動販売機、何故かわかった雪の降る日といった記憶違いかもしれないと思っている子供の頃の体験が主人公であるすーちゃんの5分で描かれると読んでいる読者の中からなんとも言葉にできない感情が少しだけ湧き上がる。

そう行った感情の小さな変化が漫画を面白くしている。


僕の感じた面白さを書いたところで作品の紹介を

コトノハドライブ 表紙

表紙に書かれている「だれにも言わない、わたしの5分」のように、わたしこと主人公の”すーちゃん”だけが体験できる5分の不思議な体験をすーちゃんの日常を描いた漫画。

作品全体とのしての感想

漫画の面白さとは漫画と読者の価値観や経験が噛み合ったときに強くなったり、弱くなります。価値観を時代や文化と言い換えても良いかもしれません。そんな理由で僕はこの漫画の面白さをノスタルジーという言葉にしました。

しかし、そういったノスタルジーという価値観が形成されていないもしくは文化が違う人達はこの漫画をどう面白がるかを考えることも重要だと思います。

そうするとこの漫画の面白さとは
「だれにも言わない、わたしの5分」というのは不思議なことが見えて聞こえ、はたまた過去や未来を体験するという主人公であるすーちゃんの体験と5分が終わってからの5分間の余韻がこの漫画の面白さであるのではないでしょうか。

しかし、この5分がとても分かりづらい。

漫画の中では作者が絵として日常と5分との境界を明確には描かずに雰囲気として教えてくれます。場合によっては出来事が終わってから分かる場合もあるぐらいにスムーズに状況が変化しています。

この変化は日常のレールを走っていると途中で非日常のレールに切り替わって5分間本来走るべき日常のレールからだんだんと離れて行く感じです。そして5分たちともとの日常のレールに戻るために離れたレールの距離がそのまま漫画での違和感として残る。

この違和感がすーちゃんが不思議な体験をしていたことを教えてくれるので読者は「あ、あぁぁ、5分間の中の出来事だったんだな」と気づくのです。それでも作者の作品に流れる空気が違和感があるのにおかしいと思わせない絶妙な描き方をするためにこの違和感ですら自然と受け入れてしまう様になっている。


漫画で描かれる不思議な体験も現実にもあり得ると思わせる出来事もあることがより境を曖昧にしている。

1話ですーちゃんが霧に飲み込まれて最後には街まで霧の下へと沈む描写は初めて読む読者には強い霧が出て街が雲海の下にあるような状態になっていると思わせる。

読んでいるとすーちゃんが霧に飲み込まれると海岸で大きな波に飲まれる瞬間のように描かれ、霧の中に入ると海の中に飛び込んだように描かれている。

霧でこの描写には違和感はある。

しかし、現実にもありそうだなという感じがすることと漫画としての表現として理解することもできなくはないためにその描写が現実か5分間の中の出来事の境がとても曖昧になってします。

それでも漫画を注意して読むと作者はその境を描いており、わからない人にも5分間の体験を彼女のモノローグとして説明をしてくれている。

このモノローグもあとから調べたというふうでまるで彼女が5分間の出来事を日記にでも書いているかのような言葉なっているのでこれ漫画自体が彼女があとから書いた日記なのではないかとも感じる。

このモノローグによって彼女が日常から半歩だけ外れた瞬間がわかり、不思議な体験への出来事への物語が描かれることで面白さが生まれているのではないだろうか。


夜に遠くから聞こえてくる謎の音、夏から冬への切り替わる瞬間、雪の知らせといった瞬間を空気感を描くのが抜群に巧い作家である芦奈野ひとしさんが丁寧に日常と非日常を描写した作品。

作者の技量で変わるオカルトと不思議な境界


読んでいると漫画の中に出てくる5分間の不思議はノスタルジーともつかない感情が湧き上がる。

ここでのノスタルジーは子供の頃に遠くから聞こえてきた謎の音、分かれ道があったと思ったらなくなっていた道、子供の頃に何故かわかった雪の降る日、何度か会ったけどわからない不思議なおさんといった子供の頃にあった勘違いとおもっていた記憶がまさか、もしかしたらという気持ちのことだ。

コトノバドライブを読んでいるそんな気持ちがと心の底に生じてくる。

漫画がうまく、1ページごとのコマ数はとても少なく作品の空気を読者に読ませている。そのためコマを大きく小さな動作や変化をあまり描かず、読者は脳内で物語の中で起きている細かな動きを読者が保管する。

このときこの漫画の独特な情味のあるキャラクター性が作品を良い方向へと上方修正している。


読んでいる人それぞれに多様な感想を持つことになるんですが、そこを起きる不思議な出来事をホラーや今は存在しない風景といった方向性が与えられて読んでいる人はある程度同じ感想を抱くことになる。

この作品のすごいところはそこにある。

作品の中で起きる不思議なことの多くはホラーであり、怖い話に分類されてもおかしくはない内容が多く。普通ならホラー作品としての分類となってもおかしくはない。

夜決まった時間に遠くから不思議直人が聞こえる、とうの昔に使われなくなった道にある自動販売機の電気がついて缶コーヒーを捨てると遠くから声が聞こえる。昔存在していたは海が見える。

こんなことが漫画で描かれればオカルトであるはずなのに、作者である芦奈野ひとしさんの絵と日常描写によって不思議で少しノスタルジーを感じる漫画になっている。

作者の描くキャラクターの性格と絵、コマの使い方、世界観のバランスがともすればオカルトのような作品になってしまう内容をうまく不思議と思わせる漫画へと落とし込んでいる。

あと、作品の絵の中にもともと絵画としての絵を漫画に落とし込んでいるような箇所がいくつもあり、そういった遊び心が読んでいてより楽しくなってくる。