この旅は、JR の路線を使い、同じ線を二度と通らず、一筆書きのように日本を横断していくというロマンあふれる企画。その道中で関口さんが選んだ記録方法が、クーピーで描いた「絵日記」でした。

この絵日記が、とにかく温かい。絵は“うますぎない”からこそ、逆に「人が見たもの」の生々しさや体温が伝わってきます。ページをめくるたびに、風の匂い、空の色、土地の湿度まで胸の奥ににじんでくるような感覚になります。

気づけば、「自分もこんなふうに旅に出て、絵日記を描いてみたい」と素直に思ってしまう。本を眺めながら、関口さんが見て、感じた世界が、ゆっくりとこちらの心にも入り込んでくるのを感じます。

本の構成とページをめくる楽しさ

本の構成はとてもシンプルです。

• 関口知宏さんの絵日記
• 乗り換え駅の名前と写真
• 43 日間の行動記録

全体で 100 ページ少々。右ページに絵日記、左ページにコメントや旅のしおりが並び、誰が読んでも流れが分かりやすい作りになっています。文章をじっくり読まなくても、絵日記だけを追っていくだけで、旅の温度が伝わってくるのがこの本のすごいところです。

自分が暮らしている場所の駅や、行ったことのある駅が出てくると、胸がふっと熱くなってしまいます。「あ、ここ知ってる」と思った瞬間、そのページを何度も開いてしまう。これはもう、仕方ないですね。

特に心に残った 2 つの絵

数ある絵日記の中でも、特に心に残っているのが 2 つのページです。

11 日目・南気仙沼〜小高の間「池にかかる赤い橋」

ひとつめは、11 日目、南気仙沼から小高へ向かう途中の「池にかかる真っ赤な橋」の絵。水面に映る赤が、静かな景色の中で強く印象に残ります。絵なのに、そこに流れている時間の音まで聞こえてくるような、不思議な静けさがあるのです。

今はなき餘部鉄橋を走る SL の夜景

もうひとつは、餘部鉄橋の絵日記。今はもう見ることのできない鉄橋の上を走る SL の夜景が描かれています。

夜の闇を切り裂くように走り抜ける SL。その姿を、関口さんがどんな気持ちで見ていたのか。ページを眺めていると、「一度でいいから本物を見てみたかった」という、少し悔しいような、せつないような、それでいて温かい気持ちが静かにこみ上げてきます。

絵日記が呼び覚ます「旅ごころ」

ページを閉じたあとも、旅の匂いがまだ指先に残っているような感覚がありました。テレビ番組としての「列島横断 1200km の旅」を知っている人も、知らなかった人も、この絵日記本を開けば、自分の中の「旅ごころ」がそっと目を覚ますはずです。

旅が好きな人、鉄道が好きな人、そして絵日記が好きな人。どれかひとつでも当てはまるなら、この一冊はきっと、静かだけれど深く、あなたの心に残ると思います。