身長9センチメートルの、小さなふたり。
彼女たちの生活を覗き見ていると、不思議な感覚に陥ります。

それはまるで、「精巧に作られた鉄道模型」を眺めている時のワクワク感に似ています。

今回紹介するのは、樫木祐人先生の『ハクメイとミコチ』
「乙嫁語り」や「ダンジョン飯」でおなじみの漫画誌『ハルタ』が誇る、書き込み系日常ファンタジーの傑作です。

緻密に描き込まれた森の世界で、食べて、働いて、暮らす。
ただそれだけなのに、いつまでも見ていたくなる。そんな「箱庭マンガ」の魅力をご紹介します。

ハクメイとミコチ

  • 作者:樫木祐人
  • 掲載誌:ハルタ
  • ジャンル:ファンタジー・日常・グルメ

どんな漫画? 9センチの視点で描く「森の生活」

舞台は、森の奥深くにある「マキナタ」の街。
大きな楠(クスノキ)の洞(うろ)にある家で、2人の小人が共同生活を送っています。

  • ハクメイ:赤毛で活発。修理屋として働く行動派。中性的な見た目。
  • ミコチ:黒髪の料理上手。保存食や日用品を作るのが得意なインドア派。

生まれも育ちも違う2人が、お互いの違いを認め合いながら暮らしています。
劇的な冒険よりも、「今日は何を食べようか」「仕事の道具を直そうか」といった、地に足のついた生活が丁寧に描かれているのが特徴です。

考察:なぜこの世界は「見ていて飽きない」のか

この漫画を読んでいる時の感覚は、「鉄道模型」を見ている時に近いです。

精密に作られたジオラマの中で、列車が走り、その周りには小さな家やビルがある。
「この小さな家には、どんな人が住んでいるんだろう?」
そんな妄想をかき立てられる感覚によく似ています。

『ハクメイとミコチ』は、その妄想に対して、圧倒的な「描き込み」と「設定」で答えてくれます。
画面の隅々まで描かれた雑貨、何気ないモブキャラクターの会話、食材の流通経路。
断片的な情報が集まるほど、「この世界は本当に実在するんじゃないか」と思えてくるのです。

「現実との距離感」が絶妙です

ファンタジーなのに身近に感じるのは、作者の工夫があるからです。
1話目から登場するアイテムを見てみてください。

  • 新聞
  • 風車
  • 昆虫が運ぶ宅急便
  • ヌートリアが引くバス

これらは、私たちの世界にもある(あるいは明治時代などにあった)ものが形を変えたものです。
さらに、ミコチが扱う食材も「なめ茸」や「クルミ」など、馴染みのあるものが多いですよね。

「私たちの知っている生活」が、9センチの世界にもある。
このリンクがあるからこそ、読者はスッとこの世界に入り込めるのでしょう。

「不思議」のバランス感覚

もちろん、ただのリアルではありません。
第1話では「夕焼けトンビ(夕日を浴びると色が変わる鳥)」が登場し、第2話では「付喪神(つくもがみ)」がお祭りに参加してきます。

タンスを背負って引っ越すという生活感(リアル)を描きながら、その横には当たり前のように不思議な生き物(ファンタジー)がいる。
この「日常と幻想のブレンド具合」が、この漫画の世界をより豊かにしているんです。

まとめ:ちひさきものは みなうつくし

清少納言は『枕草子』でこう書きました。
「ちひさきものは みなうつくし(小さいものはみな愛らしい)」

この言葉の通り、小さき人々の世界は、美しくて、愛おしい。
忙しい現代社会で、「丁寧な暮らし」を忘れてしまった時にこそ、ぜひ読んでみてください。
ページを開けば、そこには確かに彼女たちの息遣いがあります。