「エッセイ」ならぬ、「そっセイ」。
それは、エッセイ(事実)を盛るために脚色・演出した、作者・あい茶さんの造語だそうです。

今回紹介するのは、そんな「そっセイ」漫画『わたし「偽装キラキラ女子」でした』
タイトルと表紙だけ見ると、よくある「東京で頑張る私」系のお仕事エッセイに見えるかもしれません。

しかし、この漫画の真骨頂はそこではありません。

全編カラーで描かれる23歳のキラキラした日々は、言わば「前座」。

75ページを過ぎ、主人公が29歳になった瞬間、漫画の色が「セピア色(暗転)」に変わってからが本番なのです。

わたし偽装キラキラ女子でした。 表紙
わたし偽装キラキラ女子でした。 表紙

本作の読みどころ

  • Facebook全盛期、ガラケー時代の「意識高い系」IT企業の空気感
  • 「キラキラ」から「暗転」へ。ページをめくった瞬間の演出が秀逸
  • 嘘(演出)だと言い張る「そっセイ」というスタイルの面白さ

わたし「偽装キラキラ女子」でした

  • 著者:あい茶
  • 出版社:コルク
  • 出版日:2020年10月25日
  • ジャンル:エッセイ(そっセイ)

前半:23歳の「偽装」キラキラ生活

物語の舞台は2010年前後でしょうか。
スマホが登場しつつもガラケーがまだ現役で、Facebookが意識の高い人たちの間で流行りだした時代。

2016年にNHK『ねほりんぱほりん』で「キラキラ女子」が特集されるよりもずっと前から、その文化は既に胎動していたようです。

大学を卒業して上京し、イケイケの大手IT企業に就職した主人公。

「意識高い系」の波に乗り、キラキラ女子になっていく……のかと思いきや、彼女はどこまで行っても「外面だけ」の偽装キラキラ女子。

外では完璧を演じ、その反動で家ではエネルギー切れのダメ人間になる。

このあたりの「感情の上げ下げ」の演出は非常に上手く、読んでいて「あぁ、ここは盛った(演出した)んだな」と分かる部分も含めて楽しめます。

仕事に悩み、恋人と別れ、それでも仲間に励まされて前を向く。

読者が想像する「社会人の成長物語」として、前半の75ページはカラフルに、そして綺麗に幕を閉じようとします。

後半:29歳、世界は「セピア色」に

「これからも頑張っていこう!!」
そんな前向きな明るさで締めくくられたはずの物語。

しかし、突然と世界は一変します。

若さや夢を感じさせる「カラー」の色彩は失われ、突如として不穏な「白黒(セピア)」の世界が広がるのです。

そこにあるのは、29歳になった主人公の憂鬱。

張り詰めに張り詰めていた弓の弦が、「ビィーーン」と切れてしまった後の姿。

会社を辞め、家族とも距離を置くことになった彼女。

なぜ彼女の糸は切れてしまったのか。

その原因は、前半のキラキラしていた時代の直後、24歳の時に起きた「ある出来事」にありました。

それが29歳になった今も延々と足を引っ張り、結婚を約束した彼氏との関係にまで影を落としています。

「そっセイ」という演出の妙

23歳までの幸せそうなカラーページがあったからこそ、この29歳からの「暗転」が強烈に刺さります。

正直、前半の偽装キラキラ女子の話だけなら「星3つ」といったところでしたが、この後半の展開を読んで評価は「星4つ」に跳ね上がりました。

作者はこの作品を、事実に脚色と演出を加えた「そっセイ」だと言っています。

もし、この後半の重苦しい展開すらも演出だとしたら、ここは素直に騙されておくのがこの作品の一番の楽しみ方なのかもしれません。

外面だけの自分に疲れてしまった人、過去の傷を引きずっている人。

前半の「光」と後半の「影」、そのコントラストを読んでみてほしい。